為替相場は職人の世界

外為方の改正によりそれまで為替ディーラーなどの金融機関のみ外国為替市場でFXができましたが、今では証拠金制度を使い、FX(外国為替証拠金取引)ができるようになっています。プロの元為替ディーラーがどのように為替相場を分析すればいいのかを解説してくれます。

為替相場は職人の世界

長銀(当時)でのディーラー時代には、「為替相場の生き字引」と呼ばれていたとか。当時の為替市場の様子はいかがでしたか。

 

ちょうど、ドル円360円の固定相場制から変動相場制に移行した後で、急激な円高も手伝い、米国投資家には円投資ブームがありました。私は、ニューヨーク支店で日本の証券会社向けに大きな金額の為替取引を積極的に組んでいました。そのおかげで「日本のカウフマン」とも呼ばれたことはいい思い出です。ディーラーは専門職で属人的な世界でして、教科書などなく毎日が未知の連続です。(ヘンリー・カウフマン氏は、ウォール街の伝説的な金融エコノミストとして知られている)
外国為替市場

 

取引手段も電話やテレックス(モールス信号通信)が中心。電話での取引では「わかった」を「買った」と聞き間違えるといったような笑うに笑えない話もありました。その後1990年代前半からEBSと呼ばれる電子ブローキングシステムが世界的に普及し、「マイン(Mine、買い)」、「ユアーズ(Yours、売り)」と、英語での売買が一般的になりました。

 

また、大蔵省(当時)による外貨持高規制がありましたから、銀行が為替取引できる金額に制限がありました。経理上も今のような真の時価評価ではなく、自由に売買できる環境ではありませんでした。まだまだ情報格差が大きく、海外ネットワークを活かした外銀や大手都市銀行が暴れていた時代。長銀も東京市場の6人の小鬼として活発に取引したこともありました。

 

日本での為替取引(FX)の拡大については、どのように捉えていますか。

 

2つの出来事が大きく作用しました。 1つは98年の金融ビックバンです。外国為替取引が原則自由化され、現在の個人向けFX取引が誕生するきっかけにもなりました。もう1つは、金融工学の発展です。アルゴリズムなどを駆使したプライスアクションで利ざやを稼ぐ取引が急増し、いまや取引量全体の半数以上を占めています。

 

通信技術の発達で千分の一秒といった高速取引ができるようになったのに伴い、超短期的なトレードを自動的に行うプログラムも数多く登場しています。ただし、こうしたプログラムはいわば季節商品ですから、同時に数多くのプログラムを走らせながら、有効なものを見つけ出すことが必要でしょうね。あくまで短期的な取引を望まれる方に向けた話ですけれども。

為替(FX)を入口に相場を考える

為替ディーラーの経験で得た相場観について、聞かせてください。

 

「Once a dealer, Always a dealer」なる標語があります。「為替ディーラーは一度やったらやめられない」との解釈もありますが、私は「常に為替ディーラーの気概であらゆる局面で立ち向かえ」という意味を大事にしたいと思い、これまで部下にもそう伝えてきました。為替は、その市場規模や意味合いからして世界経済を集約するもの、世界経済を映す鏡です。投資行為全般において為替を人口として捉えることで、有効な相場観が養えられると考えているのです。

 

具体的な話をしましょう。為替という人口にも3つあります。「過去」「現在」「将来」です。私自身は、上記3つを20%、30%、50%の割合で相場を見ています。

 

それぞれの捉え方は?

 

「過去」はチャートが物語ります。同じようなパターンを探すことがテクニカル分析の主旨です。「将来起こることはチャートが決める」という有名な言葉もあります。またチャートは人間の心理を表します。例えば、私か活用している方法に「2・8理論」があります。 20銭、80銭、2円、8円など2と8という数値を境にトレントが変わるといった経験則です。これはチャートを勉強してこそつかんだことです。意外と的を得ていると、相場見通しに活用しています。

 

「現在」を知るには、ファンダメンタルズを分析することが有効です。為替相場の予想では、投資の3原則である「安全既」「成長性」「利回り」のうち、現状でなにが優先されているかを判断することが必要です。例えば、リーマンショック後であれば「安全性」が優先されました。世界中の資金がダンス預金(流動性の高い商品)に流れるとイメージすれば円高局面だと判断できるわけです。安全性の高低により、為替では「リスク選好」「リスク回避」という言葉で通貨の選択が行われます。この判断基準がファンダメンタルズであり、中でも重要な指標が米国の「雇用」「消費」「住宅」統計です。世界の成長の約18%が米国の個人消費にかかっているからです。

 

「将来」は政治です。 ドル円の未来は極論すれば米国の大統領で決まると確信しています。為替は国力のシグナル。納得できる水準なのか、他国からどう評価されているか。政治家にとっても関心の高いところです。私は「ポリティカルエコノミー」により、為替政策の変化の有無を分析しています。

情報の行間をいかに読むか

米国の政治とドル円相場の関連について、どのように見ていますか。

 

私か為替の仕事を始めるようになった70年代初頭から前ブッシュ政権までのドル円相場を振り返りながら整理しましょう。ニクソンからブッシュまでの任期を示したスケールの上に、歴代の財務長官を重ねてみました。財務長官は出身先で2つにグループ分けできます。ピンク色は産業界・議会・官僚(企政)の出身者。青色は金融界出身者です。調べてみると興味深い傾向が見えてくるのです。議会等の出身者は消費者寄りでドル安の傾向を示しているのに対し、金融界出身者は資本市場寄りでドル高傾向です。

 

代表的な例がクリントン政権時代のルーピンです。「強いアメリカ、強いドル」を強調し、資金を米国に集めて景気回復に結びつけ、クリントン再選の立役者になりました。

 

翻って現在のオバマ政権。財務長官は官僚出身のガイトナーです。大統領就任時よりただ1人残る経済チームのメンバーですが、交代の可能性も十分に考えられます。 2010年末に退任したサマーズ国家経済会議議長の後任者を含めて、新しい経済チームの出身先には注目しています。